ひなつく里花伝
かくされた童男の理

九星のそれぞれに、さらに十二支が配当され、八白の位置は、丑寅方角で北東、時刻の丑寅はおよそ午前一時から三
時、年前三時から五時をさし、丑の月は旧暦の十二月、寅の月は旧暦の正月をさす。季節に当てると、丑は冬の強い寒気
であり、寅は春への移行の時に当たり、八白には変化宮つまり陰極まって陽に転ずる進展の象意を見ることができる。
さて、十二支は本来植物の発生・繁茂そして伏蔵という循環の様子を示したもので、植物が種から始まって実を結び、新しい種を宿す状態を表わす。子は完了と一
んに寅)めくで地上への発芽の時とされる。
一日の時間の流れの中では、草木も眠る丑満どき夜の闇が極まって暁に変わる刻限が寅の刻、人間の一生に見立てる
と母の胎内の暗黒から分娩があり生命の誕生。そして心身ともにめざましい発育を見るこの時期は童児の姿に象徴され、
陰の極まりから陽への進展を司る姿として位置づけられている。
十五人の揃雛の中で五人囃子にのみ童児形が用意されたのは、八白の象意によるものといえる。初節句には生命誕生
の謳歌、成人ヘの予祝、女児の心身の新生成長進展を節句ごとにはやす。そうした役割にかくされた理は八白童男の象
意であり、明治の改暦以前千余年にわたって我が国の人々の生活の隅々まで浸透した十干十二支九星など、陰陽思想
の哲理だともいえる。
いろいろな祭によせる人々の心は、その祭の行事のあり方もさることながら、祭にかくされた理でもある。理を求めずして
ひなまつりの本来は、やがて失われるときが待っていよう。
完成された形のひなづくりによせた何代にもわたる先輩たちの苦心や智恵は今でも生きている。現在その仕事にたずさ
わる私たちが、単なる商品と同様の製販にあたるのは、祭具としての雛本来の伝統の崩壊につながる危倶の念にかられ
てならない。
「にんぎょう日本」1993年2月号掲載